10月は勝負の季節

 10月は勝負の季節と自分の中で決めている。体育大会やクラスマッチといった学校行事があるわけではない。私は、10月にやってくるあるメニューと戦うのだ。

 某ラーメン専門店の台湾ラーメンと出会ったのはここ数年の話だ。友人に誘われ、いつもは行く気がしなかったその店に私は行った。メニュー表を見てみると、台湾ラーメンの文字が目に飛び込んできた。「台湾ラーメンといえば名古屋発祥だな、でもカップラーメンでしか食べたことないな。期間限定なのか、候補に入れておこう。」、そんなことを思いながら他のラーメンにも目を通しておく。しばらくして、「何を頼むか決めたか。」と友人に尋ねられ、「一応。」とだけ答えた。友人はインターホン押して店員を呼び、メニューを次々に言っていった。私の順番になったが、どれを頼むかまだ確実には決めてなかったのだが、興味本位で「台湾ラーメン一つ。」と答えた。我ながらかなり冒険をしたと思いつつラーメンを待った。

 しばらくして件のラーメンが来た。私の想像した台湾ラーメンそのものであった。散らばったニラ、モヤシ、ひき肉、唐辛子。まずはレンゲでスープを飲んだ。なんだこれ、後々から辛みがじわじわくるじゃないか。そんなことを思いながら食べ続けていると、次第に汗が止まらなくなってきた。舌が痺れてきた。唇の感覚が徐々になくなっていく。しかしまだまだ麺もモヤシもたっぷりある。大量の汗を拭きながら食べる私の様子をみて友人達は笑いが止まらなかった。なんでだよ、こちとら必死に食べているんだよ。

 やっとのことで麺を食べ終わった時には、もう私を除き完食していた。こちとらやっと麺が終わったのに。「麺食べたんだしもういいんじゃないのか。」と言葉を投げかける友人を横目に私は、汁以外残してなるものかの精神でひたすらに器に向かい合った。終始、どれだけ掬ってもひき肉やニラが無限に湧き出しているような感覚に陥り、このラーメンはそういう泉なのかと思った時もあった。

 やっとこさで食べ終わったとき、私は大きな達成感に包まれた。友人はみんなスマホに夢中であったが、私が完食したことに気が付くと一緒になって喜んでくれた。汗が冷えて少し肌寒さを感じた。

 唐辛子がまるまる一本入っていたのだが、さすがに食べたくなかったので友人のチャーハンに隠し入れたら嫌な顔をされて返品された。勝利の勲章なんだから食べろよ。